
脳神経外科
概要・特色
浜の町病院脳神経外科(以下、当診療科)は40 年以上の歴史を有し、福岡の地域中核病院として最も歴史のある脳神経外科診療科であり、平成12 年には神経内科および精神科(外来)と連携を密とする脳神経センターが設置されました。
現在は脳神経外科疾患全般について診療を行っており、救急部・神経内科・放射線科など他診療科とも協力してほぼ全ての領域の脳・脊髄疾患の治療に対応しています。また、近年の医療機器設備の目覚しい発展とともに、当院に於いてもMRI、CT、SPECT などに代表される画像診断装置の高性能化による高度医療を推進するため、最新の機器を導入して患者さんの診療に貢献しています。主に脳神経外科診療に関わる機器設備としては、320 列マルチスライスCT が2台、MRI 装置は3tesla が2 台、脳血管撮影検査ではフラットパネル・バイプレーンの3DRA 装置を2 台設置し、加えて脳血流や腫瘍シンチのためのSPECT が常時稼働しています。また、術中機器としては平成19 年度からニューロナビゲーション装置を、平成23 年度から神経内視鏡装置を脳神経外科手術に導入し、より安全かつ正確な外科治療が可能となりました。
脳神経外科外来は原則として月・水・金曜日に行っていますが,火・木曜日の手術日でも他科・他院からの紹介新患に関しては,外来担当医により対応可能にしています。病床に関しては、脳神経外科病棟の利用ベット数15 床以外に、重症症例や術後症例はHCU やICU病棟を適時利用し適切な入院管理を行っています。
診療対象
現況において恒常的に取り扱う代表疾患を下記に列挙します。
- 腫瘍性疾患(悪性脳腫瘍、良性脳腫瘍、間脳下垂体腫瘍など)
- 血管障害(未破裂脳動脈瘤、破裂脳動脈瘤、脳動静脈奇形、高血圧性脳出血など)
- 機能性疾患(顔面けいれん、三叉神経痛、舌咽神経痛、てんかん、頭痛など)
- 子供の脳神経外科疾患(小児脳腫瘍やもやもや病など)
- 変性疾患あるいは先天性疾患(変形性頚椎症・頚椎椎間板ヘルニア、水頭症、脊髄空洞症など)
当科における外科治療の特長として、手術症例の内訳に開頭腫瘍摘出術の割合が多く、特にその中でも下垂体病変に対する経鼻経蝶形骨洞的腫瘍摘出術が例年約20例程度を占めます。また、機能的脳神経外科手術である片側顔面けいれんや三叉神経痛に対する神経血管減圧術が多いのが特徴です。
当科においては、前述の如くニューロナビゲーション装置や神経内視鏡装置を脳神経外科手術にいち早く導入することによって、より安全かつ正確な治療が可能となっています。また、神経合併症の予防・回避を目的として運動誘発電位(MEP:Motor evoked potential) 、体性感覚誘発電位(SEP:Somatosensory evoked potential) および聴性脳幹反応(ABR:Auditory Brain-stem Response)などの種々の術中神経モニタリングも積極的に併用して、良好な手術成績を収めています(図1)。

下垂体腫瘍に関しては、原則としてニューロナビゲーション下に経鼻的到達法を用いるminor invasive surgeryを心掛けていますが、治療に際しては、腫瘍摘出のみならず、特に機能性下垂体腺腫では内分泌学的是正を最終目標としており、例えば、成長ホルモン産生下垂体腺腫において、コルチナコンセンサスに基づく成長ホルモン是正率は、腫瘍が海綿静脈洞に浸潤していない場合では90%を越え、内分泌学的是正が困難と言われるKnosp grade 3, 4の海綿静脈洞浸潤例でも50%程度と良好な成績を収めています。プロラクチン産生下垂体腺腫に関しては、カベルゴリン製剤を中心とする薬物療法が第一選択となりますが、年齢、腫瘍局在および薬剤効果などの因子を検討し、外科的治療により治癒可能と判断される症例には積極的に経鼻的腫瘍摘出術を選択しています。
動脈瘤治療に関しては通常リスク症例であれば、原則として脳血管内治療(コイル塞栓術など)を第一選択としております。破裂と未破裂動脈瘤の相違、動脈瘤の局在・形状およびサイズによって、開頭クリッピング術も含めて、患者さんご自身の希望などを充分に検討しながら治療方針を決定しています。特に近年は脳血管内治療(コイル塞栓術)を選択する症例の割合が増加しており、高難度症例に関して、九州医療センター脳血管内治療科などと連携して、治療を行っています。(図2.図3)

図2. 未破裂前交通動脈瘤治療前

図3. コイル塞栓術6ヶ月後
コイル塞栓術後半年で動脈瘤内への血流が消失している