
卵巣がん
卵巣がんとは?
卵巣は多種多様な細胞からなっており、様々なタイプの腫瘍が発生します。
大半は卵巣の表層上皮から発生する上皮性腫瘍ですが、卵子のもととなる細胞から発生する胚細胞性腫瘍や、間葉系腫瘍・性策間質性腫瘍などがあります。
それぞれに良性腫瘍、悪性腫瘍がありますが、境界悪性腫瘍(低悪性度の腫瘍)に分類されるものもあります。
卵管や腹膜から発生するがん(卵管がん・腹膜がん)もあります。これらは腫瘍の進展様式と腫瘍に対する治療法が卵巣がんと似ていることから、専門学会では卵巣がん・卵管がん・腹膜がんを一連の病気と捉えて治療ガイドラインを策定しています。
卵巣がんの症状は?
卵巣は骨盤内にある臓器で、卵巣に腫瘍ができても小さいうちは無症状のことがほとんどです。卵巣腫瘍が捻転したり破裂した場合には痛みを生じることがありますが、多くの場合では症状がみられません。腫瘍が大きくなると骨盤の中に収まらなくなり、下腹部が膨隆するようになります。最近太った気がするとか、お腹の張り(腹部膨満感)をきっかけにかかりつけ医を受診して腫瘍を指摘されることがよくあります。お腹の中でがんの転移が起こると、腹水を生じて急速に腹囲が増大することがあります。
卵巣がんの原因は?
種々の遺伝子異常が積み重なって癌化すると考えられていますが、直接の原因は不明です。排卵が起こるたびに卵巣表面に傷が生じることとの関連が考えられ、排卵回数が多いほど癌化のリスクが高いと推測されています。妊娠・出産を経験していない方、閉経が遅い方は卵巣がんの発症リスクが高いといわれています。
様々なタイプのがんのうち漿液性癌においては、卵管の先端部(卵管采)からがん細胞が発生することが多いと考えられています。
子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢腫)は、長期的経過の中でがんが発生することがあることが知られています。
乳がん卵巣がんの発症が多い家系があることが知られています。1990年代にBRCA遺伝子異常と判明し、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)と呼ばれるようになりました。卵巣がんのうち約15%がBRCA遺伝子異常と考えられています。
検査・診断
-
婦人科診察と超音波検査
卵巣腫瘍の大きさ、性状、周囲との癒着の有無を調べます。 -
画像診断
CT検査やMRI検査で腫瘍の性状(嚢胞性か充実性か、内溶液は液体か脂肪成分か血液成分かなど)を調べます。 -
腫瘍マーカー検査
腫瘍が産生する蛋白質を血液検査で測定します。卵巣腫瘍の良悪性診断に関しては腫瘍マーカー検査の精度は、さほど高くはありません。
治療法
手術療法が主体ですが、その他に化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法があります。近年は分子標的治療薬・PARP阻害剤・免疫チェックポイント阻害剤の保険適応が拡大され、病状に応じてこれらの治療法を選択します。
卵巣腫瘍はお腹の中に存在するので、手術で組織を体外へ摘出することにより組織検査(良悪性の診断)が可能となります。卵巣がんが疑われる場合には、腫瘍を摘出して迅速組織検査を行い、手術中に良悪性を判断します。悪性腫瘍であれば、腹部の切開を延長して、がんとしての術式へ移行します。術後に判明する病理検査によって組織型・進行期を診断し、必要に応じて適切な追加治療を選択します。
若年者の卵巣がんに対しては、妊孕能を温存した術式を選択することもあります
予防手術
乳がんの患者さんで、BRCA遺伝子異常と判明して遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)と診断された場合、リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)を保険で受けることができます。卵巣がんは早期に発見することが難しいがんですが、HBOCの方ではRRSOによって卵巣がんの発症リスクを約8割低減させ、乳癌のリスクも約5割低減させることができると考えられています。当院では2024年にリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)を開始し、同年に5例の手術を施行しました。
当院の卵巣がん(境界悪性腫瘍を含む)治療実績

