食道がんについて
全てのがんの患者さんは、この30年間増加し続け約2.5倍となっています。増加の主な原因は人口の高齢化であり、食道がんも高齢者の割合が増加するものと思われます。食道がんは50歳代から、特に男性で罹患率が高くなります(女性の約6倍)。食道がんになるリスクを高める因子としては、飲酒と喫煙が挙げられ、飲酒により体内に生じるアセトアルデヒドは発がん性の物質であり、その酵素活性が弱い人は食道がん発生の危険性が高まることが報告されています。組織型は扁平上皮がんが約90%と多く、腺がんは欧米では増加傾向にあり、胃食道逆流症(GERD)による下部食道の持続的な炎症に起因するバレット上皮がその発生母地として知られています。
「2021年のがん統計予測」では、食道がんと診断された方は約2万6千人で、男性2万2千人、女性4千人と報告されています。
食道がんの症状
食道がんは、早い段階で症状を自覚することは少なく、早期発見の機会は、検診での内視鏡検査や上部消化管造影検査によります。飲食時のつかえる感じ、胸や背中の痛み、体重減少、咳、声のかすれなどの症状がみられることがあります。
食道がんの診断
食道がんの検査では、1)食道がんを確定する検査(内視鏡検査と上部消化管造影検査)と治療方針を決定するために2)食道がんの進行度を診断する検査(CT, MRI, 超音波, PET検査など)を行います。食道粘膜の表層にとどまるがんでは内視鏡での治療が可能ですが、食道がんは比較的早期(表在がん)に見つかったとしてもリンパ節転移している可能性があり、遠隔臓器への転移(肺、肝臓など)のない食道がんに対する治療はがんを取り除く切除が有効です。
食道がんの治療
食道がんの治療には、内視鏡的治療、手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤)の4つがあり、それぞれの特長を生かしながら、単独または組み合わせた治療を行います。
1)内視鏡的切除術:食道癌診療ガイドラインに準じ、深達度(病変の深さ)と進展度(病変の広がり)に応じて適応を判断し治療しています。食道がんは超高齢者や重篤な合併症を有する場合が多く、その全身状態に応じた治療を行なっています。
2)食道がん手術:胸部操作(食道亜全摘、縦隔リンパ節郭清)、腹部操作(再建臓器作成、腹部リンパ節郭清)、頸部操作(消化管再建吻合、頸部リンパ節郭清)を連続して行います。当院では、胸部操作・腹部操作は1cm前後のポートを利用した胸腔鏡・腹腔鏡手術を2005年より導入しており、大きく切開する開胸開腹手術に比べ、術後の痛みが少なく、呼吸器合併症が少ないことで身体の回復が早い利点があります。2009年からは胸部操作を全例胸腔鏡手術で行っており手術侵襲の軽減と拡大視効果によるがん根治性の向上に努めています。
3)食道癌診療ガイドラインで、II期 III期進行食道がんの標準治療は まづ化学療法を行いその後根治手術を行うことが推奨されています。当院でも腫瘍内科医と連携をとり術前化学療法を行い、画像による効果判定後、食道がん手術を行っています。
4)食道がんは、頭頚部がんや胃がんなどの重複がんが多いとされその割合は20-30% との報告があります。重複がんの有無は治療方針や手術法に影響を与えるため十分な検査が必要となります。それぞれのがんの進行度により切除(内視鏡的または手術)、化学療法±放射線治療の選択を行います。患者さんによっては頭頚部外科や形成外科との合同手術が必要となる場合もあります。
食道がん外科手術は、侵襲が高い治療となるため、麻酔科による周術期管理、救急科による集中治療管理、リハビリテーション科による術後嚥下・呼吸リハビリテーション、栄養管理、退院後の社会的ケアなど多職種の関与が必要であり、当院では福岡県指定がん診療拠点病院として全ての準備が整っています。食道がんという病気と、手術や治療法について十分な知識と経験を持った医師が担当していますので、安心して受診してください。