概要
放射線治療科では、がん全般(一部の良性疾患を含む)に対する放射線治療を行っています。放射線治療は、手術・薬物療法と並ぶ、がん治療の三本柱の1つです。がんの進行状況や、患者さんの状態に応じて、治癒を目指した治療から、症状緩和を目的とした治療まで、幅広く適用されます。放射線治療を単独で行う場合もありますが、手術や薬物療法と組み合わせた治療を行う場合もあります。治療自体の身体への負担が比較的小さい治療ですので、高齢の方や合併症を抱えた患者さんであっても、治療が可能なことが多いです。関連する診療科とは密接に連携しており、それぞれの患者さんに最適なタイミングで最善の治療を行うよう努めています。
放射線治療の目的
1. がんを根治する
適応となる疾患:前立腺がん、頭頸部がん、肺がん、食道がん、子宮頸がんなど
2. 手術と組み合わせて、治ゆ率を高める
適応となる疾患:乳がん、頭頸部がん、子宮がん、脳腫瘍など
3. がんによる症状を和らげる
適応となる症状:痛み、出血、がんによる圧迫や狭窄、神経障害など
4. 特殊治療
造血幹細胞移植前の全身照射
放射線治療の方法
放射線治療の主体は、外部照射です。外部照射とは、リニアックという治療装置を使用し体の外からX線や電子線を病巣に照射する治療法です。治療回数は、通常1日1回、平日毎日、計10回~30回程度行うことが多いですが、目的に応じて様々です。当院では、以下の高精度放射線治療も積極的に行っています。
高精度放射線治療
1. 強度変調放射線治療(IMRT)
強度変調放射線治療とは、放射線の強度に強弱をつけ複数方向から(あるいはリニアックを回転させながら)病変部のみに放射線を集中させるコンピューター技術を駆使した治療法です。正常組織の線量を極力減らすことが可能となり、腫瘍制御率の向上や有害事象の軽減が期待できるようになりました。主に前立腺癌、頭頚部腫瘍、脳腫瘍等の治療、および定位放射線治療に応用しています。
2. 定位放射線治療
"ピンポイント照射"とも呼ばれますが、小さい腫瘍に対して多方向から放射線を集中して照射する照射技術のことです。腫瘍の周囲の正常組織に当たる放射線の量を抑えつつ、腫瘍に大線量を照射することが可能ですので、安全に大きな治療効果が得られます。主に、脳、肺、肝臓の腫瘍(転移を含む)を対象として治療しており、その他の部位の治療も可能ですが、有効かつ安全に治療を実施するために適応には一定の条件があります。肺や肝臓など、呼吸によって移動する臓器の中にある腫瘍については、呼吸性移動対策技術を用いて治療しています。
対象疾患
すべての悪性腫瘍(一部良性疾患を含む)が放射線治療の対象となりますが、当院で治療している代表的疾患として、以下のようなものがあります。
- 乳がん(手術後)
- 前立腺がん
- 頭頸部がん
- 肺がん
- 食道がん
- 子宮頸がん
- 肝がん
- 脳腫瘍
- 血液疾患:白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫
- 様々ながんの転移巣
*上記以外にも、様々ながんが、放射線治療の対象となります。
放射線治療の流れ
1. 初診
放射線治療医が治療の適応を判断します。適応と判断した場合は、放射線治療の方法、治療回数、治療する範囲、期待される効果と予想される副作用について詳しくご説明します。治療内容に同意いただければ、実際の治療スケジュールを決めていきます。
2. 位置決め用のCT撮影
放射線を当てる範囲を決めるため、放射線専用のCTを撮影します。その際、身体にマジックで位置合わせ用のマークを書かせていただきます。治療方法によっては、身体に合った固定具を作成することがあります。
3. 治療計画
CT画像をもとに、専用の装置で、治療する範囲、放射線の線量、放射線の当て方を決定します。患者さん個々の状態を詳細に検討し、最適な治療計画を作成します。治療計画に必要な期間は治療内容によって様々ですが、一般的には数日以上(高精度治療では1-2週間)必要です。
4. 日々の放射線治療
治療は通常、1日1回、平日毎日(土日祝日はお休み)、計10回~30回程度行うことが多いですが、目的に応じて様々です。治療時間は15分程度ですが、定位照射などの高精度治療では30分〜1時間程度かかる場合もあります。放射線は治療計画の通りに正確に照射しますので、治療中は動かないでいただくことが重要です。放射線照射中は、痛みや熱さは感じません。
緩和的放射線治療について
がんが引き起こす様々な症状を和らげることは、生活の質を保つ上でも、安定して治療を行っていく上でも重要です。放射線治療を行うことで、がん特有の痛みや、そのほかの症状を和らげることが可能で、症状の出現を予防する目的で治療を行う場合もあります。当院では、がん診療をおこなっている各診療科及び多職種と密接に連携し、症状のある(出現が予想される)患者さんに遅滞なく放射線治療が行えるよう体制を整えています。また、近隣の連携する医療機関で治療中の患者さんが、緩和的放射線治療を必要とされる際には、院内の関連診療科と協力して、外来あるいは入院にて当院で治療を行うことが可能です。
放射線治療が適応となるがん関連の症状
- がんによる痛み(骨転移など)
- 脳転移による神経症状
- 腫瘍からの出血
- 腫瘍による気道や消化管の狭窄/閉塞
- 骨転移による骨折(骨折予防を目的とした放射線治療)
- 腫瘍による血管閉塞
*上記以外にも、様々ながんに関連した症状に対して、放射線治療は適応となります。
その他の放射線治療
1. アイソトープ治療
アイソトープ治療とは、放射性同位元素を体内に投与しておこなう治療法のことをいいます。
1) RI標識抗体療法
平成29年4月から放射性同位元素であるイットリウム‐90(90Y)とモノクローナル抗体であるイブリツモマブを使用したRI標識抗体療法を開始しました。CD20陽性の再発または難治性の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫が適応となりますが、CD20抗原というたんぱく質に特異的に結合するモノクローナル抗体(イブリツモマブ)にキレート剤(チウキセタン)を介して結合させた放射性同位元素90Yから放射されるベータ線によりリンパ腫細胞にダメージを与える治療法です(当院血液内科ホームページを参照して下さい)。
2) ストロンチウム-89
製造中止となり、現在は治療できなくなっています。
2. 小線源治療
放射線を出す物質を閉じ込めた小さいカプセル(小線源)を、治療する部位に挿入して、からだの中から放射線を照射する治療法です。当院で小線源治療を行うことはできませんが、当院で治療中の患者さんで、小線源治療が必要な患者さんについては、連携している近隣の治療施設にご紹介致します。