乳がんについて
乳がんの情報を見聞きすることが多くなってきています。最近の日本の統計では年間約9万人が乳がんに罹患し、1万4千人の方が亡くなっています。実に女性の9人に1人が生涯のうちに乳がんを患うという高い確率です。ただ様々な癌の中でも死亡率は低く、早期に癌を発見できれば治癒する可能性が高いことがわかっています。当院でも乳がんの手術数が増加しており、社会のニーズに応えて平成30年4月から乳腺センターを開設しました。外科、形成外科、腫瘍内科、放射線科などが連携して診断や治療を行います。
乳がんの症状
最も多い症状はしこりです。乳腺の深いところにある場合や乳管内の病変は触れないこともあります。一般的には良性は柔らかく平滑で、悪性はかたく可動性が悪い特徴があります。他にも乳頭からの血性分泌、皮膚の凹みなどで見つかることもあります。
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腫瘍による症状 ・しこり(最も多い) 乳頭にみられる症状 ・湿疹、びらん、ただれ ・異常分泌(片側単孔性で血性) 皮膚にみられる陥凹症状 ・えくぼ リンパ節の腫れ |
乳がんの診療の流れ
自覚症状があり受診するとき、検診の要精密検査(二次検診)で受診するとき、他院からの紹介で診断がついているときでは検査の内容が異なります。
一般的な乳腺の検査はマンモグラフィと乳腺エコーです。
異常がなければ検診へ、良性疾患や経過観察が必要な時は乳腺専門クリニックへ紹介いたします。良性と悪性の区別が難しい、悪性が疑われるときは細胞診や針生検をおこない詳しい診断をします。

1)乳癌の手術
乳房部分手術
しこりとその周囲の正常乳腺組織の一部を切除し乳頭・乳輪を温存する方法です。「乳房温存療法ガイドライン」では以下の適応条件を定めています。
- 腫瘤の大きさが3cm以下、良好な整容性が保たれれば4cmまで許容される
- 広範な乳管内進展のないもの
- 多発病巣のないもの、2個の病巣が近傍に存在する場合は可能
- 術後の放射線照射が可能なもの
- 年齢やリンパ節転移の程度、乳頭から腫瘍までの距離は問わない
乳房温存手術後の治療として乳房内再発を予防する目的で、原則的に残存乳房に5週間の放射線照射を行います。
乳房全切除術
乳房温存手術の適応のないもの、患者さんが乳房切除を希望する場合は胸の筋肉を残して乳房全体を切除する方法を選択します。
乳房再建手術
乳房全摘する場合、病状を考慮して乳癌手術と同時にあるいはしばらくしてから乳房再建を行うことができます。2013年の保険収載以来、当院では形成外科と連携して乳房全摘+同時再建手術が増加しています。人工乳房や自身の筋肉・脂肪を使用して行います。
センチネルリンパ節生検
腫瘍から最初に流入する腋窩リンパ節をセンチネルリンパ節と呼び、それに転移がない場合には残りのリンパ節にも転移がないと判断する方法です。これにより腋窩リンパ節郭清が省略でき、上腕のリンパ浮腫や運動制限などの術後合併症を回避できるという利点があります。
2)乳癌の薬物療法
術前薬物療法
腫瘍が大きく乳房温存療法を希望してもそれができない場合、リンパ節転移がある場合、炎症性乳癌、局所進行乳癌などに対して手術前に抗癌剤やホルモン療法による治療を行い腫瘍を縮小させる方法です。
術後補助療法
乳癌は乳房のみの疾患というより早い時期から全身の疾患と考えられています。手術で腫瘍が切除できても腫瘍細胞が全身を巡り再発や他臓器への転移をおこす危険性を考慮せねばなりません。こうした再発・転移の可能性を少しでも減らすための治療が術後補助療法であり乳癌の手術後は病状に見合った治療を選ぶことが必要です。当院では日本乳癌学会診療ガイドライン、St. Gallenコンセンサス、NCCNなどの基本方針に沿って標準治療を行っています。
術後全身治療としては一般的にホルモン療法、化学療法、分子標的治療があります。病状に応じて単独であるいは併用して治療をおこないます。
ホルモン療法(内分泌療法)
乳癌の中には女性ホルモンによって癌が発育するものがあるため、それを抑える抗エストロゲン剤やアロマターゼ阻害剤の内服が有効です。閉経前の卵巣機能の活発な方にはLH-RHアゴニストという月1回の皮下注射を行うこともあります。腫瘍のホルモン感受性が陽性の患者さんが対象となりますが、一般的にホルモン療法は副作用が少なく効果が長期間にわたるため有効な治療法です。
化学療法
乳癌は抗癌剤が有効な腫瘍の一つで、術後に再発の危険性が高いと考えられた場合は化学療法を行うことにより再発率が低下し生存率が高くなることが証明されています。年齢・腫瘍の大きさ・ホルモン感受性・HER2・Ki-67・核異型度などを参考にして治療の適応・内容を決定します。
腫瘍内科へ
分子標的治療
対象はHER2が過剰発現している乳癌で再発の危険性の高い人(例えばリンパ節転移陽性あるいはリンパ節転移陰性で腫瘍が1cm以上の方など)です。通常抗癌剤治療が終わったあとに開始され、3週間に1回、1年間(計17回)にわたって点滴治療を行います。副作用は初回の悪寒・発熱以外は軽微ですが、抗癌剤治療の後さらに再発率、死亡率を36%、34%低下させる効果があります。
3)妊孕性温存
当院は小児・AYA世代がん患者等妊孕性温存治療助成施設となっています。福岡県ではがん治療に際して行う妊孕性温存治療に要する費用を一部助成する制度があります。詳しくは次頁をご覧ください。