肝臓がんについて
肝臓がんは、その組織型、発生部位により分類されます。肝臓から発生したがんを原発性肝がんと呼びます。消化された食物に含まれる栄養素の合成、糖分の貯蔵ブドウ糖への分解、有害物質の血液胆汁への排出(解毒)に関わる肝細胞から発生する"肝細胞がん"と、胆汁の流れ道である胆管上皮から発生する"胆管細胞がん(肝内胆管がん)"が原発性肝がんの大部分を占めます。他の臓器に発生したがん細胞が、肝臓に転移したものは転移性肝がんとされ 肝がんに含まれますが、治療法は転移性肝がんの原発臓器によって異なります。近年は大腸癌発生頻度の増加と大腸癌に対する化学療法の発展に伴い、切除可能な転移性肝癌がん(肝転移)が増加しています。
肝がんは主として肝炎ウイルスが原因ですが、最近では肥満、糖尿病、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)によるものが増加傾向です。「2021年のがん統計予測」では、肝臓がんと診断された方は約4万人で男性2万7千人、女性1万3千人と報告されています。
肝臓がんの症状
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、初期の自覚症状はほとんどなく、がんが一定以上進行することによって、初めて症状が出現します。医療機関での定期的な検診や、他の病気の検査の時などに偶然肝臓がんが発見されることも少なくありません。進行するとみぞおちのあたりにしこりを触れるようになったり、腹部に圧迫感、痛みを感じたりします。また肝臓がん特有の症状ではないものの、何らかの原因で肝臓に障害が起こった場合、食欲不振、倦怠感、黄疸などの症状が見られる場合があります。
肝臓がんの検査
肝臓がんの検査には、がんの性質(組織型)や広がり、進行度を調べる目的でCT検査、MRI検査、超音波検査などの画像検査や、血液検査(腫瘍マーカー)を組み合わせて行います。必要であれば肝生検などの検査を追加します。
肝臓がんの治療
肝がんの進行の程度(ステージ)は、局所因子(T因子:腫瘍の大きさ、個数、脈管侵襲)、リンパ節転移(N因子)、遠隔転移(M因子)の組み合わせで決定されます。
肝がんの患者さんは、もともと慢性(ウイルス性)肝炎や肝硬変といった背景肝を有しており、肝予備能(肝機能の程度)が低下している場合も多く治療方針の決定においては十分配慮が必要です。肝がんの治療は、これらの進行の程度(腫瘍の広がり)と肝予備能さらに全身状態を総合して判断されます。
肝細胞がんの治療
肝細胞癌の治療は、1)手術療法、2)局所療法(エタノール注入療法、マイクロ波凝固療法、ラジオ波焼灼療法)、3)肝動脈化学塞栓療法 (TACE)、4)肝動注化学療法、5)化学療法、6)肝移植、7)放射線治療があります。最近では、分子標的治療薬が肝細胞癌の治療として認められ、進行した症例に対し導入されます。肝細胞癌の治療方針の決定には、全身状態も考慮された上で、基本的に"肝癌診療ガイドライン"のアルゴリズムを参考にします。このアルゴリズムは、宿主因子(肝機能)と腫瘍因子(腫瘍個数と腫瘍の大きさ)により構成され、例えば肝機能が比較的良好、すなわち肝障害度がAまたはBで3個以内の肝細胞癌に対しては肝切除または局所療法が推奨されます。また肝細胞癌が4個以上であれば肝動脈塞栓療法が推奨され、肝機能が不良(肝障害度C)の場合は肝移植や緩和医療が適応となります。
1)手術療法
肝切除術は、腫瘍の数、大きさ、局在(亜区域、区域、葉など)によって根治性を考慮した切除範囲と、肝予備能から計算された許容切除量(肝臓全体の切除可能な割合)によって安全性に配慮した切除範囲で手術の計画を立てておこないます。
肝部分切除 腫瘍の大きさに応じて部分的に肝切除を行う方法です。比較的小さな切除になることもありますし、複数個の腫瘍の場合には何カ所も切除することがあります。
肝区域切除 肝臓内の血管の走向に基づいて、肝臓全体の1/4〜1/3程度を切除する術式です。
肝葉切除 肝臓の右葉(肝の右側)または左葉(肝の左側)を切除する術式です。右葉切除では全肝の約2/3、左葉切除では全肝の約1/3を切除します。
2)ラジオ波焼灼療法 (RFA)
肝臓がんに電極針を刺しラジオ波電流を流して熱を発生させ、がんを焼く治療法です。通常、がんの大きさが3cm以内、3個以下で、超音波装置で見ながら安全に穿刺できる場合におこないます。体の表面から針を刺す場合、創は3mm程度で済み、体への負担も比較的軽い治療です。多くの場合、局所麻酔でおこないますが、全身麻酔下で腹腔鏡を用いたり、開腹したりして治療を行うこともあります。
3)肝動脈化学塞栓療法 (TACE)
足の付け根の動脈からカテーテルという細い管を挿入し、肝臓内のがんを栄養する細い動脈まで進めて、抗がん剤、塞栓物質(血管を詰めて血流を遮断する物質)を注入し、がん細胞を"兵糧攻め"にして壊死(えし)させる治療法です。がんが多発する場合や肝機能不良、高齢、併存疾患などで手術やラジオ波焼灼療法が難しい場合におこないます。
4)肝動注化学療法
足の付け根から肝動脈までカテーテルを留置し、カテーテルに薬を流し込むための装置(リザーバー)を接続し足の付け根に埋め込みます。リザーバーを専用の針で刺して抗癌剤を注入することにより肝臓全体に直接抗癌剤を投与する治療法です。一般的に、進行した肝臓がんで手術、ラジオ波焼灼療法や肝動注化学塞栓療法が難しい場合や、門脈という血管内にがんが入り込んでいる場合などにおこないます。
5)化学療法
がん細胞の増殖を抑制したり、がんが栄養を摂るために新しい血管を作るのを阻害したりする分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬と言われる薬による治療です。手術、ラジオ波焼灼療法や肝動脈化学塞栓療法などが対象とならない多発したがんや肝臓以外の臓器への転移がある方が対象になります。
6)肝移植
進行した肝硬変で肝臓の予備能力が大きく低下している場合は、九州大学と連携して肝臓移植を検討する場合もあります。
7)放射線治療
肝臓がんの標準的な治療としては確立していませんが、上記の治療が困難な場合や骨、脳への転移例、がんが血管に広がった場合などに行うことがあります。
胆管細胞がんの治療
胆管細胞癌は腺癌で、胃癌や大腸癌と似た発育をします。このため、治療法としては、切除が基本となります。肝障害がないことが多いため、肝細胞癌より肝切除量の制限が少ないですが、腫瘍が大きいことが多く、進展様式が多彩なため、それらを考慮した切除が必要になります。例えば、肝細胞癌と異なりリンパ節に転移しやすいなどの特徴があり、所属するリンパ節を「郭清」といって、一緒に取り除く手術を行います。切除できない場合は、抗癌剤の肝動脈内への投与などが行われます。
転移性肝がんの治療
転移性肝癌は、肝腫瘍の中で最も頻度が高い腫瘍です。肝臓は肺に次ぐ転移の好発臓器であり、悪性腫瘍は発生部位や種類に関わらず肝転移を来たす可能性をもちます。特に経門脈性転移が起こりやすい腹部消化器癌において肝臓は、転移先として最初に標的となる臓器と考えられます。原発臓器の癌の特徴により治療法が選択され、手術適応となる場合もあります。
当院の肝臓がん手術
当院では2008年度から腹腔鏡下肝切除術を導入しました。腹腔鏡による拡大視効果が得られ、開腹手術と比較して創が小さく、出血量が少ない、術後の痛みが少なく回復が早いため術後入院期間が短縮されるなどのメリットがあります。また治療成績も遜色ないとの報告があります。肝臓内視鏡外科研究会により、安全性評価を行う目的で腹腔鏡下肝切除術の症例登録システムが導入されており、当院も登録施設として参加しています。認定基準と手術適応に応じて患者さんに安全、安心していただける手術療法を提案しています。