大腸がんについて
大腸がんは、日本人の生活習慣の欧米化や高齢化に伴い増加しています。国立がんセンターのがん統計予測では、2021年に大腸がんと診断された方は約15万人で、がん全体で最も多い部位でした(男性3位、女性2位、国立がんセンターホームページ)(図1左)。同予測で2021年に大腸がんで死亡された方は約5万3千人で、全がんの2番目の多さでした(男性2位、女性1位)。大腸がんは、現在最も日本人がかかりやすいがんと言え、男性の10人に1人、女性では13人に1人が大腸がんにかかるとされています。
図1 大腸癌の罹患数及び死亡数 (国立がん研究センター がん登録・統計 2021年がん統計予測 改変)
大腸がんで亡くならないためには、①禁煙や肥満の解消・運動などで予防に努めること、②早期発見のためのがん検診や大腸内視鏡検査を受けること、③血便や排便の異常など症状が出た時には早めに専門医を受診すること、④がんになった場合には適切な治療を受けること、が大切です。
大腸がんの症状
早期がんでは無症状であることがほとんどであり、検診や便潜血検査などで偶然発見されることが多いです。 大腸がんがある程度の大きさになると、便に血が混じる、赤い便や黒い便がでる、下痢と便秘を繰り返すなど排便がおかしくなる、便が細くなる、お腹が痛む、お腹にしこりを触れる、貧血になる、などの症状が出現します。さらに進行すると、腸閉塞になったり、腸の壁を破って近くの臓器に広がったり、リンパ節へ転移(元々がんがあった場所から離れたところに到達し、大きくなること)を起こしたり、血管に侵入し肝臓や肺に転移したり、腸の壁を破ってお腹の中に散らばって転移したりします。
大腸がんの検査
検査には、精密検査としての大腸内視鏡検査(図2)、大腸がんであることを確認する病理検査、がんの場所を調べる注腸造影検査、がんの広がり進行度を調べるCT検査、などがあります。大腸がんになってしまった場合、がんの進行度(ステージ)を決めるために、これらの検査を受けて最もふさわしい治療法を選びます。 当科ではCT画像から血管や腸管(CT colonography)の3D画像を作成し手術のシミュレーションを行なっております(図3)。
図2 大腸内視鏡検査
図3 3D CT及びコロノグラフィ
大腸がんの治療法
大腸がんの治療には、手術治療、内視鏡治療、抗がん剤などによる化学療法、放射線療法があり、進行度(ステージ)によって標準的な治療方針が決まっています。
大腸がんの治療効果は、がんを完全に取り除くこと(切除)が最も高く、早期のがん(ステージ0かIの一部)では内視鏡での切除が行われ、それ以外のがん(ステージIからIIIまで)ではがんを含めた腸管(約20-30㎝)と転移の可能性のあるリンパ節を取り除く(郭清と言います)手術治療が行われます(図5)。ステージIVの大腸がんの場合、可能な限り転移している部分も含め切除を行いますが、切除できない場合などは化学療法や放射線療法が勧められます。
通常は、がんを取り除いたあとに、残った腸の端と端をつなぎ合わせます。大腸自体は約1.5mと長く、ある程度結腸を切除しても、水分吸収や排便機能などは保たれ、通常は大きな後遺症は残りません。リンパ節郭清を行っても、体のむくみなど身体への影響がおこることはほとんどありません。
一方で、がんが肛門に近い直腸にできた時は、がんを確実に切除するために永久人工肛門になる場合があり、肛門が残っても便の回数が増える便が漏れるなどの排便機能の障害が残る場合があります。
当院の大腸がん治療
当院では2021年度に123件の大腸癌の手術を行いました(結腸癌74件、直腸癌49件)(図4左)。大腸がんに対する手術は、巨大ながんや腸閉塞を伴ったがんなどを除き、可能と判断される場合には、どの部位・進行度においても腹腔鏡手術を行っています(2021年度の腹腔鏡での手術率は95%(図4右))。粘膜内の早期大腸がんや良性のポリープは内視鏡的切除が行われますが、内視鏡で取ることが困難な場合も腹腔鏡手術の良い適応となります。
図4 最近5年間における当院における大腸癌の手術件数及び腹腔鏡手術割合
自然肛門の温存が問題となる直腸がんに対しては、肛門ぎりぎりで直腸を切除する超低位前方切除や肛門挙筋(肛門を締めている筋肉)の一部を切除するISR(括約筋間直腸切除)などで、自然肛門の温存に努めています(図6)。腫瘍の位置や大きさ・進行度により異なりますが、術前抗がん剤治療や放射線治療も組合せることで、直腸がんの自然肛門温存率は上昇し、肛門から2-3㎝までの早期癌や4-5㎝までの進行癌でも肛門が残せるようになっています。また、やむを得ない場合を除き、神経を傷つけない手術を行って排尿機能と性機能の温存を図っています。これらの機能温存手術にも、腹腔鏡の拡大視効果(小さなものがカメラで拡大して良く見えること)と特有の視野(開腹しての手術ではっきり見えにくい部分が、良く見える)が、有効になります。進行した肛門に近い直腸がんでは、直腸両横の側方リンパ節郭清を行い、骨盤の中での再発の減少に努めています。
大腸がんの術後は、リンパ節へ転移が認められたステージIIIと再発のリスクの高いと考えられるステージII(腸閉塞や腸の穿孔を起こした場合、がんの悪性度が高い場合、がんが腸の壁の外側・漿膜まで露出した場合、血管などへのがん細胞の侵入が確認された場合、など)の患者さんには、抗がん剤による補助化学療法を行って、がんの再発予防に努めています。大腸がんが既に肝臓や肺へ転移しているステージIVの方やがんが再発した方に対しても、腫瘍内科と協力して抗がん剤による化学療法と組み合わせながら、可能な限りがんの切除を行っています。
大腸癌の再発はほとんど術後5年以内に起こるため、術後5年以上再発しないことが癌の完治の目安となります。再発しても早く見つかれば再切除などで治ることが期待できますが、切除できない場合は抗がん剤や放射線療法を行います。術後は最低5年間、3-6ヶ月毎に採血(腫瘍マーカーなど)やCT検査、大腸内視鏡検査などで定期的な再発チェックを行います。また、こういった定期検査をかかりつけ医など近隣の連携病院と協力しながら行うこともできます(地域連携パス)。
切除のできない大腸がんの患者さんには、全身化学療法や分子標的治療などでがんが大きくなるのを抑えて生存期間の延長に努め、緩和ケアのチームと相談して症状の軽減を行います。消化器外科医、消化器内科医、腫瘍内科医、放射線科医、病理医、緩和医療内科医とがん看護専門看護師や緩和ケア認定看護師、管理栄養士など、いろいろな職種の専門家によるミーティングを定期的に行い、本人に最も適切な治療の提供を心がけています。
図5 上行結腸癌(上段)及びS状結腸がん(下断)に対する手術
図6 肛門に近い直腸がんに対する肛門温存手術(ISR)
図7 腹腔鏡手術における腹腔内所見
図8 腹腔鏡手術時の手術室風景