胆石症とは
胆石症とは、胆道(胆汁が肝臓から十二指腸に排泄されるまでの通り道)にできる結石(けっせき)のことを言います。結石が形成される場所によって、(1)胆嚢(たんのう)結石、(2)総胆管(そうたんかん)結石、(3)肝内(かんない)結石などに分類されます。
胆石は、胆汁中のコレステロールの過飽和(溶けきれなくなって結晶化する)、胆のう収縮能低下、細菌感染などが原因で形成されます。
胆のう結石症
胆のうとは
胆のうは肝臓の下面にある洋梨型の袋で、肝臓でつくられた胆汁を濃縮貯蔵しておく臓器です。胆汁は特に脂肪・ビタミンの吸収を助ける働きがあり、胆のうは必要に応じて収縮して、総胆管を通して胆汁を十二指腸へ送り出し、食物の消化吸収を助けます。
胆のう結石症の症状
胆のうに結石があっても、ほとんどの場合は無症状で治療は必要ありませんが、食事で胆のうが収縮した際に、結石が胆のうの出口をふさいで胆汁が出にくくなると、強い腹痛を起こすことがあります(胆石疝痛発作)。また、右肩の痛みや背部痛、吐き気などを伴うことがあります。
また、胆石が原因で胆のう内で胆汁がうっ滞して細菌感染を起こすことがあり、腹痛に発熱を伴うことがあります。これを胆のう炎と呼びますが、重篤化すると命にかかわることがあります。
胆のう結石症の検査
胆のう結石症の診断には、採血(血液・生化学検査)、腹部超音波検査、腹部単純X線、CT、MRI(MRCP)などを行います。胆のう結石以外に、総胆管結石などが疑われる場合には、胆道の内視鏡検査(ERCP)などを行うことがあります。
胆のう結石症の治療
胆のう結石があるだけで無症状の場合、治療は不要ですが、腹痛など症状が起こるようになると、治療が必要になります。
標準的で根治的な治療は、(1)手術による胆のう摘出術です。胆のう結石が症状の原因ですが、結石を取り除くだけでは不十分で、結石ができる原因である、胆のうそのものを切除することが根治的な治療になります。
現在は腹腔鏡下に行うことがほとんどです。腹腔鏡手術は傷が目立たず、低侵襲(体の負担が少ない)であるため、早期の社会復帰が可能です。
胆のうがなくなっても胆汁そのものは腸に流れ、栄養障害などの後遺症が起こることはありません。胆のうを切除したあと、一時的に下痢・軟便を起こすことがありますが、自然に軽快します。
その他の胆のう結石の治療としては、(2)結石溶解薬(ウルソデオキシコール酸)による内服治療(結石を溶かす)や、(3)ESWL(体外衝撃波)などがありますが、有効性に乏しいこと、適応は石灰化がなく、胆のうの収縮機能が良好でありかつ成分がコレステロール結石であることなどの条件があり、さらに効果があったとしても再発のリスクが高いなどから一般的ではなく、特別な手術リスクがない場合の第一選択は手術です。
なお、急性胆のう炎を発症した場合も、当院の治療の第一選択肢は手術です。急性胆のう炎の診療ガイドライン(Tokyo Guidelines: TG18)に則り、手術・麻酔リスクが許容される場合は早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術も行っています。また、中等症以上で早期手術の適応とならない場合は、抗生剤治療やPTGBD(経皮経肝胆嚢ドレナージ)などを行い、状態が落ち着いてから待機手術を行っています。
腹腔鏡下胆嚢摘出術について
全身麻酔を行い、おなかに数か所(通常4か所)穴をあけ、カメラ(腹腔鏡)でおなかの中をのぞきながら柄の長い道具(鉗子)を用いて胆のうを摘出します。
腹腔鏡手術の創
開腹胆嚢摘出術の創(右季肋下斜切開、上腹部正中切開、右傍正中切開など)
ただし腹腔鏡で手術を始めても、胆のう周囲の癒着や炎症が高度で解剖の把握や剥離操作が困難な場合、あるいは出血が多くなり術野確保が困難な場合は、安全のために開腹手術に移行する場合があります。(当院では1%以下)
初診から治療方針決定~入院~退院後(終診)までの流れ
- 問診
- 診察
- 検査
- 治療法の決定
- 入院
クリティカルパス(治療スケジュール)に沿って治療を進めます。 - 手術
- 退院
通常、術後2~3日で退院可能です。退院後は日常生活を送るうえで特別な制限はありません。 - 退院後の受診(外来受診)
退院後、1~2週間後に一度外来を受診していただき、問題なければ終診となります。
総胆管結石症
総胆管結石があると、現在無症状であっても、いずれ胆管につまって胆汁が流れなくなり、胆管炎(発熱、黄疸など)を起こすため、症状が出る前の治療が必要です。
総胆管結石の治療には、(1)手術(腹腔鏡、開腹)、(2)胆膵内視鏡、(3)経皮経肝的治療に分けられます。
以前は開腹手術による結石除去が行われていましたが、1969年ごろに十二指腸内視鏡が、1974年には内視鏡的乳頭切開術が開発され、お腹を切らずに結石除去を行うことが可能になりました。ERCP (Endoscopic Retrograde Cholangio-Pancreatography) 内視鏡的逆行性胆道膵管造影と呼ばれる手技です。
ERCP 内視鏡的逆行性胆道膵管造影
当院でもERCPを導入し、年間200件以上の検査・処置を行っています。
静脈麻酔で鎮静後、胃カメラと同じ手順でカメラを飲みます。カメラを十二指腸まで挿入し、胆汁の出口=十二指腸乳頭に1mm強の細い管(カテーテル)を挿入します。造影剤を胆管内に注入して、レントゲンで結石を確認します。胆汁の出口である十二指腸乳頭を電気メスで切開(内視鏡的乳頭切開 EST: Endoscopic Sphincterotomy)し、バスケットやバルーンで結石を胆管から除去します。
バスケットで直接除去できないような大きな結石は、機械式破砕具(EML)や電気水圧衝撃波(EHL)を用い、胆管内で結石を割ってから除去します。なお、ERCPで除去困難な場合(胃全摘後などで通常のERCPスコープが届かない)や、結石が大きく何度も内視鏡が必要、などの場合には、腹腔鏡下に胆管を切開して結石を除去する手術も行っています。
良性疾患 | ERCP | 133 例 |
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EXT(内視鏡的胆管結石切石) | 78 例 | |
シングルバルーン併用 | 5 例 | |
悪性疾患 | ERCP | 137 例 |
ERBD(内視鏡的逆行性胆管ドレナージ) | 85 例 | |
ENBD(内視鏡的経鼻胆管ドレナージ) | 10 例 | |
メタリックステント | 7 例 |
肝内結石症
肝臓でのコレステロール、胆汁酸、リン酸代謝異常を背景に、肝内胆管に結石が形成される疾患です。内視鏡による結石除去(PTCS:経皮経管胆管鏡やERCP:内視鏡的逆行性胆道膵管造影)による結石除去を行います。胆管狭窄がある場合や、肝萎縮がある場合などでは、結石の存在範囲や個数、基礎疾患などを総合的に判断して手術治療=肝切除術が適応となることもあります。