腹腔鏡手術とは、お腹に1㎝前後の穴を数個(通常5個程度)開けて、そこから特殊なカメラ(腹腔鏡)と専用の手術器具をお腹に入れて、カメラで映し出す映像をモニターで拡大して見ながら手術を行う方法です(図1)。お腹を炭酸ガスでふくらませることで、お腹の中で病気の場所や広がりの確認ができ、胃や腸、胆嚢、肝臓などの組織(臓器)とそれらを栄養する血管を切り離すことが可能です(図2、3、4)。従来のお腹を大きく切って行う手術は開腹手術と呼ばれますが、腹腔鏡手術でも切り取った胃や腸などの臓器を取り出すために、小さく開腹(通常3-6㎝程度)をすることがあります。開腹手術と全く同様に臓器そのものを切り取ること(切除)ができ、がんの手術で必要なリンパ節の切除もできる点で、胃カメラや大腸カメラを用いて小さながんやポリープだけを切り取る内視鏡的切除とは大きく異なります。
腹腔鏡手術時の手術室風景
腹腔鏡手術の特徴は、何と言っても傷が小さいことです(図5)。このため、術後の痛みが少なく、体への負担が軽く、早期に離床が可能となり、傷の化膿や癒着による腸閉塞も少ないとされています。通常手術の翌日には歩行が可能となり、小腸などのお腹の臓器に及ぼす影響も少ないため術後の回復が速く、退院や仕事への復帰も開腹手術に比べ早くなります。術後の臥床が長いと肺炎を起こしたり筋力の低下を招いたりしますので、特に高齢者の方には回復の早い腹腔鏡手術は有用です。また、臓器を拡大して鮮明に観察できるため、出血したところをピンポイントで確実に止血でき、出血量も少なくなります。同じ理由で、細かな血管や神経および操作すべき場所を明瞭に確認することができ、精緻で的確な手術を行うことが可能になります。一方で、術者が触って確認するという触覚を利用した操作が出来ないこと、鉗子と呼ばれる特別な器具で手術を行うこと、お腹全体を見渡すことが出来ず視野が限られること、など腹腔鏡手術は制限が多く、一般的に手術時間は長くなります。このように腹腔鏡手術は十分な経験と高い技術・専門の設備が求められる手術であり、手術を行う術者や助手だけではなく、看護師や臨床工学技士などと連携を取りながらチームとしても高いレベルで習熟が必要です。
1990年に本邦で初めて腹腔鏡下に胆嚢の摘出手術が行われ、1991年に早期の胃がんに1992年には大腸の腫瘍に対して腹腔鏡手術が行われました。その後30年の間に腹腔鏡手術は食道や胃・小腸と大腸・肝臓、膵臓、胆嚢、脾臓、ヘルニアなどの病気の治療に活用が広がり、ほとんどで保険の適応が認められています。当院消化器外科では、胃がん、大腸がん、胆石症、鼠径ヘルニア(いわゆる脱腸)をはじめ、多くの病気に対する手術を腹腔鏡で行っています(図6)。