遺伝性腫瘍外来
遺伝性腫瘍外来では、主に遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の診断がついている患者さんに対して、遺伝カウンセリング、リスク低減手術についての相談、サーベイランスなどについての診療を行います。
1.HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)とは
HBOCは、BRCA1 または BRCA2 遺伝子の変異が原因で、若い年齢で乳がんや卵巣がんを発症することが特徴です。HBOC は、乳がんや卵巣がん、膵がんや前立腺がんなどの発症リスクが非常に高いため(図)、BRCA 遺伝子検査を行い、診断を付ける必要があります。HBOC の治療には、リスク低減乳房切除術やリスク低減卵管卵巣摘出術などがあります。これらの手術により、がんの発症リスクを減らすこと ができます。また、これらの手術を希望されない場合には、定期的な検診をうけることが重要です。
2.BRCA遺伝子検査について
2020年4月から、乳がんや卵巣がんの方に対してHBOCの診断目的でのBRCA遺伝子検査が健康保険の適用となりました。この検査で、BRCA1/2遺伝子に変異があることが明らかになった場合には、リスク低減手術も健康保険が適用されます。BRCA遺伝子検査の保険適応には条件があります。
【BRCA遺伝子検査の保険適応条件】
保険適応となるのは、乳がん既発症例の中では、以下のいずれかの項目に当てはまる方が 対象です。
1. 45 歳以下の発症
2. 60 歳以下のトリプルネガティブ乳がん
3. 2 個以上の原発乳がん発症
4. 第 3 度近親者内に乳がん、卵巣がんまたは膵臓がん発症者がいる
5. 男性乳がん
6. 近親者に BRCA1/2 遺伝子変異がある
また、卵巣がん、卵管がんあるいは腹膜がんのいずれかの既発症例と従来からの PARP 阻 害薬に対するコンパニオン診断の適格基準を満たす場合に保険適用となります。 上記以外の場合は、すべて自費診療となります。
参考:遺伝性乳がん卵巣がん症候群の保険診療に関する手引き
HBOC_tebiki_23.0531.pdf (jbcs.gr.jp)
3.予防的切除(リスク低減手術)
「RRM(リスク低減乳房切除術)」
HBOC での乳がんの特徴は、乳がんの発症年齢が若く、トリプルネガティブ型の乳がん が多いなどがあります。80 歳までに乳がんに罹る確率は、一般の女性が 11% であるのに 比べ、BRCA1 遺伝子変化の保持者で 72%、BRCA2 遺伝子で 69% と、高くなることが知 られています。RRMは、HBOC と診断された方の乳がん発症リスクを確実に下げることができるため、乳がんの発症予防策としてガイドラインでも推奨されています。手術は、全身麻酔で行い、乳房を切除します。乳房再建を希望される場合は、人工乳房を挿入するか、自分の組織を使って再建します。手術のリスクは、出血や感染症、手術後の痛み、乳房の変形などがあります。リスク低減乳房切除術は、乳がんの発症リスクを減らすための手術ですが、手術にはリスクがあることを理解し、手術後もケアを行うことが大切です。
「RRSO(リスク低減卵管卵巣摘出術)」
HBOCと診断された女性は、一般の女性と比べ、卵巣・卵管・腹膜がん(以下卵巣がん)になりやすいことが知られています。生涯のうち卵巣がんになる確率は、一般の女性が 1.3% であるのに比べ、BRCA1 遺伝子変化の保持者で約 40%、BRCA2遺伝子の変化で約 20% と高いことが知られています。RRSOは HBOC と診断された方の死亡リスクを確実に下げることができ、卵巣がんの最大の予防策として推奨されています。今後の妊娠を考えていない方では 35-40 歳、遅くとも 45 歳までにリスク低減手術を受けることが勧められており、一般に腹腔鏡手術によって行われ、摘出した卵管・卵巣は病理検査に提出し、がんがないか調べます。RRSO は卵巣がんが発生する卵管と卵巣を周囲の腹膜とともに切除する手術です。RRSOでは卵巣を左右ともに摘出するため、ホルモンが減少して更年期症状を自覚しやすくなったり、症状が強く出たりする可能性があります。RRSO の実施には、その影響を上回るメリット(死亡率の低下)が明らかに証明されています。
4.サーベイランス
遺伝性乳がん卵巣がん症候群の患者では、リスク低減手術を受けることで、がんの発症リスクを大幅に減らすことができます。リスク低減手術を受けない場合でも、サーベイランスを受けることで、がんの早期発見に役立つ可能性がありますが、がんの発症を予防することは出来ません。サーベイランスの方法には、マンモグラフィ、乳房超音波検査、乳房MRI、卵巣超音波検査、CA125検査などが含まれます。これらの検査は、定期的に行う必要があります。ただし、サーベイランスはリスク低減手術の代替法として妥当であるという根拠ないということには留意する必要があります。
当院では遺伝性乳がん卵巣がん症候群の患者さんの乳房や卵巣の予防的切除、サーベイランス等を保険診療内でおこなっています。
受診の方法
対象となる患者さん
・乳がんか卵巣がんを発症している方
・血液検査でBRCA1/2遺伝子に変異がある方
※両方に該当する患者さんが対象となります
遺伝性腫瘍外来
毎週月曜日午後 15:00- 担当医師:乳腺外科 金城和寿
※遺伝性腫瘍外来は完全予約制となっております。現在通院中の主治医に相談し、主治医から受診予約していただく必要があります。
他院の先生へ
1.お申し込みを希望される場合は、以下の書類を地域医療連携課までFAXにてお送りください。
・診療情報提供書 (PDF) (Excel)
・gBRCA1/2遺伝子(血液検査)の変異がわかる検査結果
[例:BRCA2 c2386_2387 del(p.Ser666)]
2.FAXでの申し込みを確認後、受診日を調整し改めて地域医療連携課よりご連絡させていただきます。
FAX送付先・問い合わせ先
地域医療連携課
FAX:0120-721-991
電話番号:0120-721-990